2016年11月24日

「動物の値段 満員御礼」

 動物商であり、現在は爬虫類・両生類専門の動物園「izoo」の館長でもある著者が動物の値段を記した「動物の値段」の第2弾です。

 前作と同じく、今作も「ワシントン条約」が読む上での重要なキーワードになっています。
 ワシントン条約は動植物の輸出入に関するルールですが、知らなくてもまあ大丈夫かな。読んでいるうちにだいたいのことは自然に頭に入ってくると思いますが、「附属書I〜IIIがあって、Iが一番厳しい」程度の予備知識はあったほうが理解しやすいかもしれません。

 輸出入の制限絡みで興味深かったのはホッキョクグマ(ワシントン条約附属書II:許可があれば商取り引き可)とヒグマ(附属書I:商取り引き禁止)の話。
 ロシアからホッキョクグマを輸入しようとした動物商(著者ではないらしい)が、その個体がヒグマとの交雑種だと判明したために直前で輸入中止にしたそうなのですが、その理由が予想外。
 ワシントン条約のルールでは、附属書Iと附属書IIの交雑種はIとして扱われるのだそうです。よって商取り引き不可。
 雑種なんて要らないってことかと思ったら、純血種より厳しく規制されてましたというお話でした。

 そんな感じで、今回も値段そのものよりは売買に付随するこぼれ話や豆知識のほうが面白かったです。
 ちなみにホッキョクグマの値段ですが、以前は800万〜1200万円だったのが、輸出国の減少などにより最近では6000万円だそうです (・`ω・´;)
 それが本書で一番高額。逆に一番お安かったのはハムスターの800円でしたw

 本書に載っているのは動物園や水族館で飼育するのが前提の動物が多数ですが、中には許可があれば個人で飼育できるものもいるそうです。
 チーターなんて飼えるそうですよ。様々な許可が必要だし、飼育のための広大な土地が必要だし、1頭600万円くらいするそうですけど……

 アザラシはタマちゃん騒動のときまで鳥獣保護法で保護されていなかったとか、なぜなら海棲哺乳類は農林水産省の管轄で、鳥獣保護法は環境省の管理下にあったからとか、タマちゃんを捕まえようとする輩が現れたため(著者ではないそうですw)急遽適用したとか。
 そうしたためになる話のなかに、時々動物の飼い方をやけに詳しく教えてくれるのが本書の侮れないところw
 詳しいことは企業秘密と言いながら、オオアリクイのエサのレシピ教えられても困るw

 最後に、今回一番感心したかもしれない話を。
 フラミンゴがピンク色をしているのはエサに含まれるカロテンの影響だそうです。こういうのを「色揚げ」というらしいです。鮭と同じ原理?
 動物園や水族館では色揚げ効果のあるフラミンゴ用配合飼料を与えているんですって。じゃないと白くなるから。
 先々月、八景島シーパラダイスでフラミンゴを見たんですが、足の関節がすごいピンク色をしていたのね。不自然な色だな〜と思ったのは、あながち間違いではなかったのかもしれません。

 あと、屋外で飼育しているフラミンゴが逃げないのは風切羽を切っているからだと思っていたのですが、実際はそれだけではないそうです。
 フラミンゴって、飛ぶのに凄い助走が必要なんだそうです。アホウドリと同じ原理?
 だから、それを見越した広さに設計されているんですって。

 その他、約30種類の動物についての話、どれも面白かったです。

2016年02月01日

「慟哭の谷」

4167905345慟哭の谷
北海道三毛別・史上最悪のヒグマ襲撃事件 (文春文庫)

木村盛武
文藝春秋 2015-04-10

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 1915(大正4)年 12月、北海道苫前村三毛別で発生した熊害事件について詳細に調査し、まとめられたのが本書です。
 死者8名、重傷者2名の大惨事となったこの事件は小説にもされていますし、市街地に出没したヒグマを駆除したというニュースが流れたときなどには、ネット上では必ずと言っていいほど目にします。
 昨年は事件発生から100年目にあたり、テレビで特集なども組まれたらしいので(私は見ていませんが)ご覧になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 私も Wikipediaでは読んだことがあったんですが、100年の節目に文庫化された本書をきちんと読んでみることにした次第です。年越しちゃったけど。
 ヒグマ駆除のニュースを見て、クマ可哀想とか殺す以外に方法はなかったのかなぁと思ったことのある人には是非読んでほしい一冊です。

 本書は二部構成で、第一部では三毛別の事件について、第二部では著者自身の体験も含めたヒグマとの遭遇事件や襲撃事件について記されていて、通して読むとヒグマという生き物の習性が見えてきます。

 最も恐ろしくて厄介だと思われるのは、執着心の強さ。
 執着心と呼ぶのは正しくないかもしれないけど、とにかく一度手にした獲物はもう絶対に自分の物、なんだそうです。だから、ヒグマに襲われて亡くなった人を取り返しに来るの。クマにしてみれば、それは食べかけのご飯を取られたということなんですね。だから取り返そうとする。そして、三毛別の事件では同じ家が何度も襲撃される事態が起こったんだそうです。
 その習性を知ると、野生のクマにエサを与えることがどんなに危険かわかります。安易なエサやりは、人もクマも殺しかねないのです。(このあたりのことは「ヒグマソーセージ事件」などでぐぐると良いかと思われます)

 三毛別の惨劇は100年前の出来事ですが、同様の事件は現在も起こり得るということを知っておかなくてはならないと思います。

【参考リンク】
 ・元林務官が執念の取材で追究した、ヒグマによる史上最悪の惨殺事件の真実(本の話WEB:著者インタビュー)
 ・知床ヒグマえさやり禁止キャンペーン

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2015年08月24日

「殺人者はいかに誕生したか」

410137452X殺人者はいかに誕生したか
「十大凶悪事件」を獄中対話で読み解く
(新潮文庫)

長谷川博一
新潮社 2015-03-28

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 臨床心理士の著者が凶悪事件の犯人と面会や手紙のやりとりを重ね、なぜ事件は起きたのか、なぜ彼らは殺人者になったのか、を探っていきます。
 取り上げられている10の事件のうち、8件は私も知っている事件でした。たぶん誰でも知っていると思います。

 最初に書いちゃうと、タイトルの「殺人者はいかに誕生したか」の「いかに」の部分が充分に説明されているかと言えば、否と言わざるを得ないと思います。
 理由はわりとはっきりしていて、それ以上の話が出来ない状況になってしまうから。
 死刑判決が確定すると、その時点で面会できる人間は非常に限られてしまうのだそうです。4人って書いてあったかな。そうでなくとも、相手が面会拒否したらそこで終わりになってしまうわけですし。諸般の事情ですべては書けないということもあるでしょうし。

 なので、「え、これで終わり?」と感じることが多々ありましたが、それでも本書の内容が多くの知見を得られるものであることに間違いはありません。
 「なぜ」を繙いてゆくと多くが幼少時の虐待に行き着いてしまうのはいたたまれないことですが……

 裁判は量刑を判断する場であって、真実を究明する場ではないのだそうです。
 裁判員裁判の導入によって裁判の迅速化が望まれる現在、その傾向がより顕著になっていることを著者は憂慮し、再発防止の意味でも「なぜ」を詳らかにすることは必要だと主張します。

 たしかに、裁判があくまでも量刑を判断する場であるというのは、それはそうだろうなと思います。
 そして、「なぜ」を解明することも遺族の気持ちを考えると大事なことだと思うし、それを行うのに裁判という場は適切だとも思います。
 でも、現実には逆の方向へ進んでいるようで……どうしたらいいんでしょうね。

 さて。私は本書で、本当に記憶が欠落することはあるんだということを知りました。
 よくニュースなどで、容疑者が事件当時のことは憶えていないと供述している、と報道されることがありますけれど、嘘だと思ってました。とぼけているんだとばかり。
 秋田の、自分の娘と近所の男の子を殺した母親の事件。
 あれってたしか、娘さんの件を警察が事故死と判断したのを、そんなはずはないって母親自身が訴えていたんですよね。なんでわざわざそんなことしたんだろうと当時は思ったものでしたが、極度の健忘状態にあったと知って納得しました。

 あと、当たり前っちゃ当たり前のことですが、報道される犯人の顔と、心理鑑定を通して見えてくる犯人の顔は違いますね。
 秋田の事件でもそのギャップに驚いたとジャーナリストの江川紹子さんが解説で書いてらして、こういう人でもそういうことで驚くんだと驚いた次第です。

 犯罪についても、それに付随するもろもろの環境についても、臨床心理士という著者の立場についても、いろいろと考えさせられることの多い本でした。

2015年07月10日

「植物はすごい - 生き残りをかけたしくみと工夫」

 現在、我が家で育てている植物は、カシワバゴム、ドラセナ、ポトス、アリッサム、イタリアンラベンダー、花かんざし、ダイアンサスの8種類。
 カシワバゴムとドラセナはかれこれ20年近く、ポトスも10年以上の付き合いです。
 そんな植物たちを育てていてたびたび思うのは、「植物ってホント凄い」ということ。
 つい最近も、葉を一枚も残さずに伐ったゴムの木から葉がわさわさ生えてきたことで凄さを実感したところです。

 その私の気持ちを代弁しているとしか思えない本書のタイトル。書店で見つけて即買いしてしまいました。
 内容は、何とな〜く知ってたことから全然知らなかったことまでいろいろ。

 私、育てたことはないんですけど食虫植物が昔から好きで。最近、近所の花屋さんでウツボカズラやハエトリソウを売ってるのを見てドキドキしてしまったんですが、このハエトリソウ、感覚毛に一回触れただけじゃ閉じないんですって。閉じるのってすごくエネルギーを使うので、ゴミが付いたとかで間違って閉じないように、一定時間内に数回触れたら生物だと判断してるらしいです。すごい!
 あとね、虫を捕るのは窒素を補給するためで、必要な栄養素が揃ってれば普通に光合成するそうです。

 それから、セイロンベンケイソウという植物は、葉を切り取って水に浮かべておくと、芽や根が出てくるんですって。びっくり。
 セイロンベンケイソウ、ハカラメ、マザーリーフあたりで画像検索するとたくさんヒットしますので、木になる方……じゃなくて気になる方はぜひ。

 非常に楽しく、勉強にもなった本書ですが、一ヶ所だけちょっと気になるところが。
 アジサイの葉は青酸系の毒を含んでいるというくだりで、毒があるからアジサイの葉は虫に食われないときっぱり書かれているんですが……いやいやいや待って。うちの近所のアジサイ、周囲に植えられている他のどの植物よりも虫に食われてボロッボロです。もう葉脈しか残ってないような葉っぱ、たくさんあります。
 アジサイは虫がつきやすいという印象だったので、そこだけひどく違和感を覚えましたが、全体的には面白い本でした。

4121021746植物はすごい - 生き残りをかけたしくみと工夫 (中公新書)
田中修
中央公論新社 2012-07-24

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 p.s.この書影は味気ない表紙ですが、私が買った本にはもう一枚、ラフレシアやハエトリソウやバナナの写真があしらわれたカバーが掛かっていました。
 やけに分厚いカバーだなと思ったら二枚重ねw

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2015年06月23日

「遠野物語remix」

 行きつけの美容室に持って行って読んでたら、

店長 「今日は何読んでるんですか〜?」
私 「遠野物語だよ〜」
店長 「ああ〜、河童のやつ?」
私 「だいたい合ってる」

 こんな会話になりました。
 でも、そんなに河童河童してないよ!

 遠野にいるのは河童だけじゃないのです。なんか、いろいろいる。いろいろ。
 そんないろいろな伝承を集め、編纂したのが柳田國男先生。そして、それを現代語訳し、読みやすく並べ替えたのが京極夏彦先生というわけです。

 これを読んでると、伝承って何なんだろうなぁと考えさせられます。
 訓話的であれば、「そういうふうに作られた話」と納得できるんだけど、何の救いもないし意味もわからない話が伝わっているのって何なんだろう?
 それとも、現地の人や昔の人には教訓的な意味があったりしたのかな? いや、でも、本作中にも「なんでそんなことをしたのか誰にも分からないし、何の効果もなかった」と書かれていたりするのですよね。ふーむ。

 あと、津波で妻子をを亡くした男の話というのがありまして。
 岩手県や宮城県沿岸は昔から津波の被害に遭っていた土地だというのを震災後知りましたが、本当にそうなんだなぁ(いや、疑っているわけじゃなくね)と、胸に迫るものがありました。
 しかもこれ、何の救いもない話なのが悲しすぎて。家族を亡くした男性が一方的に可哀想なだけの話でした。やるせない。

 さて、本書は「付・遠野物語」ということで、巻末に原文が載っています。
 文章自体はそれほど読みにくいわけじゃないんですが……改行! 改行大事! とつくづく思いました。

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