「不連続の世界」 恩田陸

不連続の世界(幻冬舎文庫)恩田陸  初めて恩田作品を読んだのは15年以上前のことだと思う。『六番目の小夜子』だった。  評判が良かったので読んでみたのだけれども、私には今ひとつ良さがわからず、何だかこの人とは合わない気がするという印象だけが残った。  以降、他の作品を手に取ることはなかったのだが、たまたま本作を読む機会に恵まれたので挑戦してみた。  塚崎多聞という音楽プロデューサーの視点で紡がれる5編は、ホラーのようなミステリのような、面白い味わいの物語だ。  ホラー色が強いのは、聞くと死にたくなる歌の真相を探る『悪魔を憐れむ歌』。  ミステリ色が強いのは多聞…

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「桜の森の満開の下」 坂口安吾

桜の森の満開の下坂口安吾  この作品のことはもちろん昔から知っていて、人間椅子の同名の曲を聴いたり、舞台を現代にした森見登美彦版を読んだりはしていたけれど、オリジナルを読むのは今回が初めてだった。  凄惨なのに美しい物語。  そして、胸の内側がざわざわしてとても不安になる物語だと感じた。  まず作者は冒頭、「桜の花の下から人間を取り去ると怖ろしい景色になる」ということを、大事なことだからか一文の中で二度も言って、桜に対する負の感情を読者に持たせる。  更に、桜の花の下に来ると人は皆、気が変になると畳みかけて不安を煽る。  そうして描かれるのは、山賊…

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「幻想寝台車」 堀川アサコ

幻想寝台車堀川アサコ  幻想シリーズの7作目。  本作からカバーイラストのイラストレーターさんが変わったんですね。  私がこのシリーズを読み始めたそもそものきっかけは、シリーズ1作目「幻想郵便局」のカバーイラストに惹かれてのことだったので変更は残念ですが、こちらもとても素敵なイラストです。シリーズ通しての雰囲気も踏襲されてるし。  さて、今回の主人公は、同棲していた彼女に去られて自殺を図る青年、篠原多聞。  ただし本当に死ぬ気はさらさらなく、ただ元カノの気を惹きたい一心で、いくら飲んでも死なないだろうと高を括って睡眠導入剤や抗うつ剤を大量に飲んだスットコドッコイです…

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「アリクイのいんぼう 家守とミルクセーキと三文じゃない判」 鳩見すた

アリクイのいんぼう家守とミルクセーキと三文じゃない判(メディアワークス文庫)posted with amazlet鳩見すたAmazon.co.jpで詳細を見る  まずはタイトルに注目していただきたい。 「アリクイのいんぼう」  「陰謀」という字を思い浮かべた人が多いのではないだろうか。私はそうだった。  そして「主人がオオアリクイに殺されて1年が過ぎました」という昔の有名なスパムメールを思い出したりしたのが、本作に登場するのはオオアリクイではなくてミナミコアリクイ。  どんな動物か知らなかったので画像検索してみたら、あら可愛い。白いボディに黒っぽいエプロンを…

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「エジプト十字架の秘密」 エラリイ・クイーン

エジプト十字架の秘密エラリイ・クイーン  「エジプト十字架の秘密」は、私が小学3年生か4年生のころに生まれて初めて読んだ推理小説です。  学校の図書室で借りた、子供向けに翻訳されたものでした。  当時の私がこの作品に対して具体的にどんな感想を抱いたのかは憶えていませんが、この後、立て続けにX、Y、Zの悲劇を読み(なぜか国名シリーズには行かなかった)、チェスタトンのブラウン神父シリーズやルルーの「黄色い部屋の謎」、ミルンの「赤い家の秘密」などを読み続け、仕舞いには自分で推理小説を書こうとまでしたので、相当面白かったのだと思います。  そんな、私の推理小説好きの原…

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「消えた脳病変」 浅ノ宮遼

消えた脳病変ミステリーズ!新人賞受賞作浅ノ宮 遼  東京創元社の第11回ミステリーズ!新人賞受賞作だそうです。  消えた脳病変。何だか惹かれるタイトルです。  医療ミステリには興味があるものの読んだことはないので、とっかかりとして短編はいいのではないかと思って読んでみました。  医学部の講義で講師が出題したのは、患者の脳から消えるはずのない病変が消えた謎。  最初に謎を解いた人には次の試験で50点上乗せすると言われて俄然やる気を出す学生たち……というお話。  購入前にレビューをいくつか読んだところ、謎は途中でわかっちゃったという声が多数…

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「いちば童子」 朱川湊人

いちば童子朱川湊人  もしかしたら私が知らなかっただけかもしれませんが、最近、電子書籍ストアで短編を一作ずつ売っているのを見かけるようになりました。  本作もそのひとつで、コーヒー会社のウェブサイトに掲載後、文春文庫アンソロジー「あなたに、大切な香りの記憶はありますか?」に収録された一編だそうです。  37、8年前のこととして語られるのは、大阪万博を翌年に控え、開発が進む大阪での出来事。  語り手の「俺」は小学2年生のとき、市場で不思議な少年に出会いました。  市場と言っても競りを行うような場所ではなく、下町の小さな商店街。「俺」が言うにはアーケードがあるの…

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「ポイズンドーター・ホーリーマザー」 湊かなえ

ポイズンドーター・ホーリーマザー (光文社文庫)posted with amazlet湊 かなえ 光文社 (2018-08-08)Amazon.co.jpで詳細を見る  イヤミスと分かっていても、なぜか読みたくなってしまう湊作品。  本書「ポイズンドーター・ホーリーマザー」に収録されている6編のうち、5編は母親に抑圧されて大人になってしまった娘たちの物語です。  しかし、1編だけ母娘の話ではない作品が、実は最も印象に残っていたりするのですが。  「ベストフレンド」と題されたその作品は、自分のほうが実力は上だと見下している相手にどうしても勝てない脚本家志望の女性の苦悩を描い…

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