「三鬼 三島屋変調百物語四之続」 宮部みゆき

 三島屋シリーズ第四弾のタイトルは「三鬼」。なんか紛らわしいぞ。

 聞いて聞き捨て、語って語り捨てが約束の変わり百物語。
 シリーズ四作目ともなると、聞き役を務めるおちかちゃんも最早プロ。相手が話しやすいように誘導するのなんてお手の物だし、この人からは興味深い話が聞けそう、と自分から声を掛けたりするほどに。
 その百物語センサーは優秀で、なんと相手方も話を聞いてもらおうかと思っていたそうで。
 そうして語られるのが第二話「食客ひだる神」。本作に収録されている四つの物語の中で、唯一つらくないお話です。

 ひだる神は別名を餓鬼ともいう、山道などで行き倒れた者の霊のことだそうです。
 「ひだる」の意味がわからなかったのですが、空腹であるとか飢えてひもじいという意味の「饑い(ひだるい)」という言葉があるんですね。知らなかった!

 で、ひだる神に憑かれると急に激しい空腹を覚え、「総身から力が抜ける」「冷汗が流れる」「しゃがんでも目眩がする」などでその場から動けなくなってしまうそうなのですが、そういうときは食べ物を少し口にすれば良いとのこと。

 ん? それって空腹による低血糖では?

 私もたまになるので、遠出するときは用心のためにラムネ菓子をバッグに潜ませています。
 以前は角砂糖状のぶどう糖を持ち歩いていたのですが、ラムネがほぼぶどう糖で出来ていると知ってからはラムネにしました。安いし。タピオカでん粉も使われているから流行に乗ってタピるとかも言えるし(言わない)。

 ともあれ、普通は一過性のものであるはずなのに、この低血糖、いや、ひだる神は一筋縄ではいかなかったのです。

 本作のひだる神は怨霊というより座敷童子のようで、迷惑な部分もあるけれどそれも笑える範囲内。暗くつらい話の多いこのシリーズのなかではかなり異色と言えると思います。
 しかも、この作品の前後の話(第一話「迷いの旅籠」、第三話「三鬼」)がいずれも人の業を描いたやるせない話なので、五割増しで心温まる印象になった気がします。

 第四話の「おくらさま」もまた哀しい話ですが、ここでは同時におちかちゃんを取り巻く状況の変化も描かれています。
 おちかちゃんの従兄の富次郎が三島屋へ戻って来たり、貸本屋の若旦那、勘一が登場したりと賑やかになる一方、去る人も……
 これはちょっと意外な展開でしたが、守役のお勝さんの予言(?)の意味が私の解釈どおりなら、哀しいばかりじゃないからきっと大丈夫。

 三島屋シリーズは百物語であると同時におちかちゃんの心の傷を癒す物語でもあるので、今回の二人の新キャラの登場は彼女にとって良いものであると信じて先を楽しみにします。
 第一話の「迷いの旅籠」もこれだけでは終わらない雰囲気があったので、その辺も気になります。ただ、どう考えても愉快な話にはならないだろうから、楽しみとは言えないのですけど……

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