「HOLY」 吉本ばなな

 クリスマスの日。女子大生の「私」が恋人との待ち合わせ場所に向かう夕暮れの数時間を描いた短編。

 まず、「私」のクリスマスに対する純粋な思いに新鮮な驚きを感じた。
 「私」は純粋にクリスマスが好きなのだ。特別な日という思いはあるが、世間に乗せられているような浮ついた感じは一切ない。
 街並も、行き交う人々も、家の中の飾りつけも、美しく華やいでいるのが良いのだろうか。死ぬときはクリスマスだといい、とまで思っている彼女の心は静かな幸福感に満たされている。

 前日に綺麗に洗車した小さな赤い車に乗って街へ出た「私」は、真紅のリボンの掛かった大きな箱を抱えた男性に目を止める。
 男性は焦り顔でタクシーを探しているようだが、そこは特別に車をひろえない通りなのだ。
 それを知っている「私」は、車を止める。

 見知らぬ人間を車に乗せるなど、トラブルの予感しかしないが心配無用。
 これはクリスマスという祝福された日の幸福な物語なのだ。

 実は私、本作が初ばなな。
 作風など一切知らずに読み始めたので、この「HOLY」というタイトルはホラーやサスペンスでもいけるよな……と少々警戒していたが、まったくの杞憂だった。
 なんとまあ、優しく温かい世界であることか。

 ほんの5分で読了できる短編だが、ここまで読み手の心をほっこりさせることができるものなのかと感心した。
 たまにはこういう幸せだけが存在する物語を読むのも悪くない。ただ、時季は選ぶべきだった。

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