「まるまるの毬」 西條奈加

 皆さん、こんにちは。和菓子大好きワガシスキーです。
 和菓子屋さんが舞台という、ただそれだけの理由で本書に食いつきました。

 タイトルは「まるまるのまり」ではなく「まるまるのいが」と読むそうです。「毬」という字は「いが」とも読むんですね。知らなかった。

 さて、本作の舞台は江戸の麹町。
 ここに南星屋という和菓子店を構えている主人の治兵衛、その娘のお永と孫娘のお君、そして治兵衛の弟で僧侶の石海が主な登場人物です。

 還暦を迎えた治兵衛は元は旗本の次男坊。10歳のときに菓子職人を志して家を出、長じてからは全国を渡り歩いて各地の菓子を研究してきたというワガシスキーさんです。
 そんな南星屋が売るのは日本各地の菓子。定番といったものはなく、その日の仕入れ状況や主人の気分でメニューが決まるシステムで、昼過ぎに開店し、売り切ったら閉店という行列のできる繁盛店であります。

 そこで第一章の「カスドース」。

 カスドースって、だいぶ前に「和風総本家」で見た憶えが。
 ただ、カステラっぽくてめちゃくちゃ甘そうだった記憶しかないので調べてみたところ、卵黄を絡めたカステラを糖蜜で揚げて砂糖をまぶした南蛮菓子だとか。

\ 糖 蜜 で 揚 げ る !! /

 凄いパワーワード来ました(じゅるり)
 でも、なるほど、これが「めちゃくちゃ甘そうだった」記憶かも。

 このカスドースはかつて平戸藩で門外不出とされた菓子だそうで、それゆえに本書でも事件になってしまいます。

 南星屋が販売した「印籠カステラ」をたまたま食べた平戸藩の江戸家老(甘い物好き)が、これは我が藩のカスドースに相違ないと言い出したからさあ大変。
 治兵衛は奉行所に引っ立てられ、どこでレシピをパクったと問い詰められまくります。
 滅相もない偶然です、諸国を巡っていたときも平戸には行ってません、カスドースなんて初めて聞きましたと治兵衛は訴えるのですが、そうなんだ~で済むわけもなく。

 このピンチを治兵衛はどう乗り越えるのか!
 という感じで、章タイトルがお菓子の名であることもあって、厄介事をその都度お菓子の力で乗り越えていく話かと思っていたらそんなこともなく。

 本書で描かれているのは家族の形。
 治兵衛の家族。娘のお永と孫のお君。それから、治兵衛が子どもの頃の家族。
 皆、心根の優しい人たちなので読んでいるこちらも優しい気持ちになれるのが良いです。
 ただ、皆が互いを信頼し合って支え合っているけれど、家族を思いやるがゆえに打ち明けられないこともあったりして。家族を思っていても、やはり個人としての思いもあるわけで。
 それがタイトルの「まるまるの毬」なんですね。ただまぁるいだけじゃないよ、イガもあるんだよと。

 そんな感じで、波風もあるけれど基本的に穏やかでほっこりした雰囲気で話は進んでいくのですが、南星屋が繁盛するのを妬む輩が現れてから俄然不穏な雰囲気になってしまいます。

 治兵衛に言わせれば、庶民も買いやすいよう極力値段を下げているからそんなに儲かってないのに……ということなんですが、私も冒頭で南星屋の業務形態を読んだときには、それで生活していかれるって凄いな~と思いましたから、妬まれるのもまあ仕方ないかなと。
 お永さんが内職してる様子もないし、お君ちゃんはひと通りの習い事に通ってるそうだし。そんなカツカツの生活でもないですよね。
 もちろん、だからと言って嫌がらせをしていいなんて微塵も思いませんが。

 並べたドミノの端を指先でつんと突くような悪意の発露は治兵衛自身ではなく治兵衛の周囲に降りかかり、そのことが治兵衛を苦しめるという何とも嫌な状況になるのが本当につらい。
 皆が自分のことより家族を思いやっているのは、温かな気持ちにはなるけれど、思いやりが軛にもなってしまっているように感じられてつらかったです。

 全体的にはほっこりした雰囲気ながら、厳しいこともつらいこともある本作。
 起こってしまったことはなかったことにはできないけれど、顔を上げて前に進もうという姿には強さと同時に美しさも感じました。
 で、これは見当違いかもしれないのですが、治兵衛たちに新たな希望の光をもたらすのは、ほんのちょい役で登場したこれまた気持ちの良い人物なんじゃないかなと思っています。
 なので、この家族の先行きは明るいなと感じた次第です。

 さて、本書に出てきた和菓子はほとんどが実在するので画像検索しながら読むととても幸せになれるのですが、個人的にはもう少しあんこ分が欲しかったかなと、アンコスキーのワガシスキーは思いました。

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