「陰日向に咲く」 劇団ひとり

 本書が刊行されたのは2006年。当時、書店で最初の数ページを立ち読みして、これは面白そうだと思った記憶がある。
 芸能人の書いた小説に興味はなかったけれど、面白い・出来が良いという評判を目にしたから手に取ったのだと思う。
 しかしながら文庫派である私、文庫になったら読もうと思い、ドングリを地中に埋めたリスのごとくそのまま忘れてしまった。

 それから干支が一巡して、ようやく読んだ。
 もっと早く読めば良かった。

 日々の仕事に疲れ果て、たまたま電車に乗り合わせたホームレスに希望の光を見出してしまった会社員。
 売れていない上に年齢的にもそろそろアレなアイドルを全力で応援し続ける青年。
 その場の勢いで、将来の夢はカメラマンと語ってしまった20歳のフリーター女子。
 ギャンブルで借金まみれの多重債務者。
 売れない芸人に恋した少女と、エキセントリックなストリッパーに恋した芸人。

 五つの物語は次から次へ、僅かな接点でつながっていく。
 それは、なるほどねと納得の接点から、そんなとこかよ! と意表を衝かれた接点まで様々で、当然のことながらそれぞれの物語も様々だけれど、ただひとつ共通しているのは、皆どこか行き過ぎたところのある人々だということである。

 たとえば、最初の物語「道草」の主人公。
 いわゆるブラック企業勤めなのだろう、日々の仕事のプレッシャーに押しつぶされそうになっている会社員が、もういっそのことホームレスに……と考えたりするのはわかる。
 が、ホームレス風の服を自作してこっそり着てみるって何。ホームレスになりたいってそういうことなのか。方向性が歪んではいないか。

 次の「拝啓、僕のアイドル様」では、食費までをも削ってアイドルにつぎ込んでいく主人公の姿が描かれる。
 これだけだと単なるドルオタの妄執だと思われそうだし、私も途中までそう思いながら読んでいたのだが、実は違った。もっと切なくて純粋な思いがそこにはあった。
 五つの物語の中で、私は本作が一番好きだ。

 全話分を書くと長くなりすぎるし、ネタバレもしてしまいそうなのでこの辺で。

 かつて立ち読みしたときに感じたとおり面白い小説だった。
 最初のうちこそ、読みながら劇団ひとりの顔がちらついたけれど、すぐに忘れてしまったのも純粋に物語を楽しめたからだと思う。
 同じお笑い芸人の書いた小説という雑な括りで比べると、又吉直樹の「火花」よりも格段に読みやすかったし登場人物に共感もできた。

 ただ、最終話だけはいただけなかったが。
 連作短編の最後で、ぐるりと回って最初に繋がる大事な話で、構成などは面白かったけれど、私には響かなかった。
 それは、主人公のひとりである売れない芸人の芸が壊滅的につまらなかったせいだ。

 売れない芸人なのだから芸がつまらないのは当然だけれども、いかんせん尾籠なのだ。品がないのである。
 とは言え、たぶんほとんどの人は気にならない程度だろうとは思う。自分が過剰反応している自覚はある。しかし、無理なものは無理なのだ。
 どれだけ必然性があろうと下品という時点でわたし的にはアウトで、読む気が失せてしまった。最後まで読み切りはしたが、途中までの面白さは半減してしまったのが残念だった。

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